「谷川俊太郎の33の質問」(ちくま文庫)=前回からつづき=
24.ヌーディストについてどう思いますか?
服と髪型は記号だと思う。個々の持つ社会との関係性を真っ先に規定するものだと。従ってハゲとヌーディストは究極の無個性であり得るはずなんだけど(宇宙人の絵は毛がないよね)、現実には少し違うっぽい。とはいえ、真っ裸で暮らしていると、部屋の中が抜け毛だらけで困るだろうに。
25.理想の献立の一例をあげて下さい。
白いごはん、豆腐汁、アジの開き…と挙げていくうちに気付いた。まんま旅館の朝食ではないか。そういえば『男はつらいよ』でフーテンの寅さんは、以下のように付け加えていた。「上等、上等、あとはお新香、海苔、タラコひと腹に辛子のきいた納豆、これにはね、生ネギを細かく刻んでたっぷり入れてくれよ!あとは塩昆布に生卵でも添えてくれりゃ、オバちゃん、何もいらねえな、うん」。
26.大地震です。先ず何を持ち出しますか?
「生存に必要なもの」「人生で大切なもの」とふたつのカテゴリーに分かれるが、これは分けて考えた方がいい。サバイバルを考えたら、愛用のレイン・ポンチョかな。雨風しのげるし、くるまって寝られる。ひもがあればタープにもなるし。人生で大切―の方は、持ち出す必要があるモノなんて、ぼくにはない。本一冊あればいいかな。ボナッティの『わが冒険』とか。
27.宇宙人から『アダマペ プサルネ ヨリカ』と問いかけられました。何と答えますか?
「え、ぼく? 人類滅亡は勘弁っていうか。敵意まったくないっす。なんか口から妙なモン出てません?緑色のそれ、部屋汚れるんですけど。あ、冷蔵庫勝手に開けるのやめてくんない(怒)」
28.人間は宇宙空間へ出てゆくべきだと考えますか?
無理だと思う。NASAのマーズ・パスファインダー・ミッション(1996)のとき、火星から送られた画像を見たけれど、あまりにも荒涼としていて、そこに人間の生活を組み立てられる気がしなかった。アダムもイヴも、そしてメシアさえ存在できないだろう。

29.あなたの人生における最初の記憶について述べて下さい。
小さいころ歩いた札幌の住宅街。砂利道を踏んで、ナナカマド(北海道ではありふれた街路樹)の木がある公園まで走っていった。そのそばに教会があって、残雪の時期、とがった屋根から雪がどさりと落ちる。季節は春。なぜか人が出てこない。
30.何のために、あるいは誰のためになら死ねますか?
秘密。一応、「殉じる覚悟はある」とだけ。
31.最も深い感謝の念を、どういう形で表現しますか?
笑顔と言葉かなあ。それ以外に必要なもろもろをごまかせちゃう。まことにもって、かたじけのうござると言って深々とアタマを下げる―なんて経験したことないし。
32.好きな笑い話をひとつ、披露して下さいませんか?
「こ、これは…人生訓?なんちゅう情けない」。イベントでもらったTシャツを見て絶句した。そこには達筆とは言いがたい筆文字で「俺が俺がの我を捨てて、おかげおかげの下で生きる」と大書してあったのだ。しかも、筆者(大阪のロックミュージシャン)の落款入り。
家に帰ってあらためて広げてみたが、ちょっと恥ずかしすぎる。部屋着にもならんなとタンスに仕舞い込もうとしたところ、奥さん(当時)が「ワタシにちょうだい」と持って行った。そして、何やらダンボールに詰めていた。
それから数か月、テレビで海外ニュースをぼーっと見ていたら、インタビューされている男の背後になにやら見覚えのあるモノが。ん、日本語か?
「おーい、ちょっと。速く速く!」
「どうしたん?」
「ほら、後ろのオトコが着てるやつ。あのTシャツだよぉ」
奥さんがどこぞに送ったと思ったら、衣類のリサイクルで地球の裏側に届いていたのだ。あれから20年近く。内戦のボスニアであのシャツを着ていたオトコに聞きたい。あれはクールなデザインだと思ったのか?と。
33.何故これらの質問に答えたのですか?
林光や武満徹、岸田今日子とか、いろんな人がこれらの質問に答えてたっけ。仕事で人に質問することがあったけれど、何を聞いたらいいか分からないことが多々あった。そんなとき、この質問を参考にしたことがある。いつか自分でも答えようと思いながら。
=おわり=