「谷川俊太郎の33の質問」(ちくま文庫)=前回からつづき=
9.白という言葉からの連想をいくつか話して下さいませんか?
ミルク、雪、ユリの花、恋人たち、あとはシーツとかシャツ。清潔なイメージ。概して即物的だが、的を射ていると思う。ふと気づいたけれど、白自体は「色がない」というわけではない。絵具にも「白」はあるし、色(というか顔料)としてはかなり人工的じゃないかな。だって、印刷物ならいざしらず、自然界でデフォルトではない。黒の対語というのも違う気がする。
10.好きな匂いを一つ二つあげて下さい。
小さな子どもを抱きしめたときの匂い。かすかに草いきれのような匂いがする。食べ物だと、パン工場の店先もいいな。淹れたての珈琲の香りと交じり合って、勤め先の近所にあったけれど、すごい誘惑だった。 ほかに、ミンクオイル。変な話だが、グローブを手入れするとき、この匂いをかぐと、うきうきしてしまう。あ、それは意味が別か。
11.もしできたら「やさしさ」を定義してみて下さい。
やさしさは「テンダー・バタンズ=やさしい釦=」。いつも思うことだけど、言葉は事物と精神をつなぎとめるボタンのようなものだと。シャツのボタンを留めるような、さりげないきずな。ガートルード・スタインの詩から。
12.一日が二十五時間だったら、余った一時間を何に使いますか?
もちろん睡眠。寝るという行為をないがしろにしすぎている。ぼくも含めて、みんな。不眠は本当に苦しい。生きるという営為の三分の一を占めているのは、まぎれもない眠りのはずなのに。辺見庸の芥川賞受賞作に『自動起床装置』というのがあった。そのなかで「起こし屋」の少年がぼやくくだりを思い出す。
13.現在の仕事以外に、以下の仕事のうち、どれがもっとも自分に向いていると思いますか? 指揮者、バーテンダー、表具師、テニスコーチ、殺し屋、乞食。
消去法でいくと殺し屋かな。独りでする仕事が好きだし。――友達はつくらない。稼ぎはレコードと本に注ぎ込む。いま気に入ってるのはスピノザの哲学書…という殺し屋を以前小説で読んだ。あと指揮者もいいかも。フライフィッシングをしたとき「スジがいい」とほめられた(似てるのは動きだけか)。
14.どんな状況の下で、もっとも強い恐怖を味わうと思いますか?
たくさんあって分からない。けれども、高所恐怖症なので、『超芸術トマソン』のイイムラ氏みたいな冒険だけは勘弁を。
15.何故結婚したのですか?
相手を自発的に選んだから。親や生地は選べないけれど、結婚相手と居住地は自分で選ぶことが出来る。人生初の大事な選択だったと思う。離婚もまた選択だったけれど。
=つづく=
